SPECIAL

takt op.Intermezzo

ある少女の日記

◯Day1

新しい一日が始まった。この世界は私に何をしてくれるんだろう。
って、ママが昔こっそり見せてくれた映画のことばを思い出した。
わたしと同じ名前の女の子が出てくる古い映画。

今日、わたしはコゼット・シュナイダーになった。
お姉ちゃんがいきなり二人もできた。
でも、しばらくはアンナさんと二人きり。他のみんなは仕事でニューヨークに戻らなきゃいけないんだって。
いちどに家族が四人も増えたら驚いちゃうから、二人だけの方が気が楽だと思ったけど、そんなこともなかった。
やっぱり緊張しちゃったみたい。
せっかくアンナさんが作ってくれたごはんが食べられなかったから。

ごめんなさいって言ったら、アンナさん、タルトタタンをだしてくれた。
懐かしいにおいがして、気づいたら全部食べちゃってた。
とても、とてもおいしかった。
それを伝えたら、アンナさんはにっこり笑って、また作るって言ってくれた。
嬉しかった。

アンナさんだって、いきなりわたしと一緒に暮らすことになって不安だと思う。
けど、それでも楽しそうに笑ってくれてたので、ほっとした。
まだ少し恥ずかしいけれど、明日は「お姉ちゃん」って呼んでみようかな。


♪Day2

不安。とっても不安。
あの人、なんだかとっても、不安だ。

アンナお姉ちゃんは、近くに住んでる幼馴染みの世話もしてあげてる。えらい。
だからわたしも手伝おうと思って、ついていった。
「年下のくせに、生意気なやつなの」ってアンナお姉ちゃんが教えてくれたんだけど。

その家、まずピアノがあった。
グランドピアノ。すごい。

そしてピアノの側に、なにかいた。
たぶんあれは人なんだと思うけど、ちょっとあやしい。
あれはきっと、ピアノを弾くおばけかなにかだと思う。
近くで掃除してても何してても、気にせずずっとピアノを弾き続けてるんだもの。

すごく無愛想なその人は、朝雛タクトさん、っていうらしい。
なんだか、すごく不安で、すごく気になる。
見ていると、自分が感じてた不安がどうでもよくなるぐらい。

……そういえばアメリカって音楽禁止じゃなかったっけ?


♫Day3

すごい。すごい。
すごいヘンで、すごい。

ヘンな人、朝雛タクト君。
わたしより年上みたいだけど、わたしより生活能力ないから今日から君付けにする。
なにがすごいって、ほんとピアノ以外何もできない。
ご飯も作らなければ、掃除もしない。
なんとか風呂とトイレは一人でできるようだけど、それだけ。
すごい。どうやって生きてきたんだろう。

だけど。
それでもピアノだけはすごい。タクト君のピアノはすごい。
なんだろう。なんだろう。命がけ、っていえばいいのかな。
胸の奥に響いてくる。熱が伝わってくる。
身体の芯からぞくぞく、ってなる。すごい。

すごいなあ。音楽って、すごいんだなあ。

そういえばママからもらったペンダント、タクト君のピアノを聞いたあとに、光ってたような気がする。
ママも喜んでたってことかな? だとしたら、嬉しいな。

ばいばい、これまでのわたし。
よろしく、これからのわたし。

 

定期連絡

ハァイ、天国。
定期連絡って面倒よね。
こういうの、あなたのほうが向いてるでしょ、っていつも思うんだけど。
あぁ、でもね、ちょっとおもしろいことがあったの。聞いて。

朝雛タクト。
この名前、とくにファミリーネーム。聞き覚えない? 報告すればわかると思うわ。
コンダクターになってたわよ、彼。
運命っていう、宝石みたいな瞳をしたカワイイムジカートを連れて、ね。
ワルキューレちゃんともさっそく良い感じになってたし、コンダクターとしての才能もありそう。フフッ。見たら天国も惹かれちゃうかもね。
彼、ニューオーリンズからニューヨークに向かうって言ってたわ。
あたし達が向かうのもそっちのほうだし……もしかすると、また会えちゃうかも? 貰っていい? 壊していい? ダメ?

ちなみに、首席指揮官サマは彼をとても不快に思ってるみたい。
部下になれとか言ってヘタな勧誘したんだけど、やっぱり失敗して、なんともかんとも。
男の嫉妬って怖いものだからねぇ。例のヤツ、また使うことになりそうよ。

連絡は以上。
マエストロに、よろしくね。

P.S. このお仕事、そろそろ飽きてきたし、代わってくれない?

――閲覧者コメント:内容精査の上、文体修正後GMに提出

 

『D2ならびに黒夜隕鉄と音楽の相関性』

敵対性不明生物対策協議会 第三期中間報告より一部抜粋
10/12/2037

~(前略)~

2.1 平時における国民への敵対性不明生物(以下、D2と記載)情報提供

○ D2襲来時の危機に対応する情報提供だけでなく、予防的対策として、平時においてもD2襲来を未然に防ぐための情報や様々な調査研究の結果などを国民に情報提供する。こうした適切な情報提供を通し、D2が出現した場合の対策に関し周知を図り、納得してもらうことが国民に正しく行動してもらう上で必要である。

~(中略)~

5.1 D2対策について

○ 諸外国における知見を踏まえ、また国内において回収した黒夜隕鉄を研究した結果、次のように考えられている。

(1) D2と音楽の関係

○ D2と呼称される敵対性不明生物の核となるものが黒夜隕鉄である。原理はいまだ未確認ながら、黒夜隕鉄は音楽に対して過敏に反応を示し、極めて攻撃的に活性化する。D2は核である黒夜隕鉄の活性に従い、音楽のある場所への聚合・攻撃を行うと推測されている。

○ 人の手による音楽演奏に対しての反応が特に強いことが確認されている。音源記録媒体の視聴も同様である。潜伏状態のD2を検知するために有用な手段ともいえるが、万全な対抗策が確立されていない現況下での詳細な調査はリスクが高いため推奨しない。

(2) 黒夜隕鉄の封印措置

○ D2は活性状態にある黒夜隕鉄に対しても聚合する習性が認められる。

○ 黒夜隕鉄は、音楽が存在しなければその活動を休止させる。
活動休止までに必要な経過時間は■■■時間と推察されている。

○ 黒夜隕鉄の活性化を制限する研究はすでに開始され、封印手段は確立されつつある。但し、その効果はまだあくまで低減である。完全な封印手段の確立には研究、試験を引き続き行っていく必要がある。

(3) 民間でのD2対策

○ 音楽の演奏ならびに視聴について、地下もしくは地底の遮蔽空間、あるいはそれに準ずる密閉空間や防音環境においてはD2による認知軽減の効果が一定認められる。詳細については「音楽演奏に関連するD2対策ガイドラインの見直しに係る意見書」で取りまとめられている。

○ 上記意見書については緊急訂正の後に議事録より削除。

○ 音楽の演奏について、コンサートホール等の密閉環境においてもD2の襲撃を受ける事例が確認された。襲撃の詳細については「2037年ボストンコンサートD2襲撃事件に係る報告書」で取りまとめられている。

○ 国民の安全な生活に対する影響力の大きさも踏まえ、音楽自体の強制的な禁止措置を検討する必要がある。

 

D2対命第65号

D2対命第65号
8/25/2047
0900

巨大黒夜隕鉄の発見に対する、封印処置命令の実施及び運搬回収に関するシンフォニカ戦力移動命令

  1. 2047年8月に巨大な休眠状態の黒夜隕鉄が発見された。将来的な大規模なD2災害の誘因可能性がある。
    _
  2. ニューヨーク・シンフォニカは、2047年8月発見の黒夜隕鉄封印処置を行う。
    尚、この黒夜隕鉄の運搬回収につき休眠中のD2が活発化する恐れもあるため、併せてニューヨーク・シンフォニカ保有戦力の移動を行う。

3. シントラー首席指揮官は、戦力移動の実施及び黒夜隕鉄運搬の指揮を、次により実施せよ。
___(1) シンフォニカに属する作業員の員数即応可能な作業員を、最大100人規模で動員する。
___(2) シンフォニカに属する機材・兵器の総量
______黒夜隕鉄運搬用の強化装甲列車。
______機材回収及び悪路開拓のための重機一式。
______ムジカート・地獄、ムジカート・ワルキューレの随伴。
______尚、ワルキューレにおいてはコンダクター不在のため稼働時間に問題があるため、留意する。
___(3) 経由地点
______回収地点:南中央地区ロズウェル近郊
______中継地点:ヒューストン
______目標地点:ボストン研究所
___(4) 命令の実施時期
______直ちに命令を実施し、その終期は運搬任務の完了報告が受理されるまでの間とする。

4. この命令の実施に関し必要な細部の事項は、シントラー首席指揮官に指令させる。

 

「流通、回復の道筋。鍵は官民一体の事業戦略」

D2の活動が小康状態となり、落ち込んだ経済の回復に向けて、インフラの整備が急ピッチで進められている。
東海岸から中央部の被害状況は甚大であり、いまだ踏み入ることの出来ない地区も多いが、東西をつなぐルート整備は順調に進行しており、流通は回復の兆しをみせている。
これにより街中で市場なども開かれるようになり、多くの市民が集い、賑わいをみせていた。

政府とシンフォニカは共同声明のなかで、遅れている区画の復興に多額の予算と人員を割くことを公表しており、これからの復興にも期待が集まる。

また、流通回復の遅れている地区では、土地の再開拓、農地開発が進められている。
ラスベガスはかつてのD2襲撃によって、主要であったカジノ産業は完全に停止。しかし、市民主導による開拓指導によってトウモロコシなど穀物の大量生産に成功し、今では西地区を中心に食材流通の安定化に大きく貢献している。
ラスベガス代表市民のラング氏は「ラスベガスを戦禍復興の中心地として盛り上げ、各地からの難民を受け入れて農地開発を進め、やがては食材流通の中心地にしていきたい」と語っていた。

復興の道を辿るアメリカ各地。
目下の課題は潜伏しているD2の存在であり、シンフォニカは広く目撃情報を呼びかけている。

――L.A.News Report/August 24,2047

 

ニューヨーク・シンフォニカのガイドブックより抜粋

About Us
♫~ニューヨーク・シンフォニカについて~♫

シンフォニカは「人々に天球の音楽を」という創設理念のもと、
社会貢献を目的とする民間団体として設立されました。

(中略)

やがて叡智の結晶たる『ムジカート』の開発に成功した我々は、
頻発するD2襲来に対抗すべく、各地に大規模な運用施設の建設を開始しました。

戦略防衛基地:シンフォニカ。
人類守護の砦とも言える場所です。
ここには最先端の研究施設はもちろん、情報・防衛のすべてが集まっています。
各国政府の完全協力を得て、現在も大都市を中心に建設を進めています。
すでにニューヨーク、ジェノヴァ、ベルリンにはシンフォニカが完成。
みなさんの街の『安心』でありたい。それがシンフォニカの願いです。

これらを運営するのがシンフォニカ・インターナショナル・オーガナイゼーションです。
各地域によって管理方法が異なり、時代やニーズに合わせた柔軟な運営を信念としています。
ここニューヨーク・シンフォニカの統括(GM)にはザーガン氏を迎えました。
かの大戦の英雄による指揮の下、厳しい訓練と試験を経て選抜されたコンダクター達が所属。
優秀なムジカートを複数体配備し、日々皆さんの安全のために従事しています。
そしてニューヨーク・シンフォニカでは、広大なアメリカ大陸全土をカバーするために、
9つの支部による支部管理制度を導入しました。
ニューヨーク本部とすべての支部には直通回線を開設し、24時間・リアルタイムの対応が可能です。

ニューヨーク・シンフォニカの体制は盤石です。
いままでも、そしてこれからも。
国民の皆さんのため日々活動している、シンフォニカへの応援と協力を、どうぞよろしくお願いいたします。

 

ボストンの惨劇

昨夜6時30分頃、ボストンで大規模なD2の襲撃事件が発生しました。
シンフォニカの制圧部隊が緊急出動し事態は鎮圧されたものの、ボストン市街への被害は甚大で、一日経った今もなお現地では行方不明者の捜索と生存者の救助が進められています。
事件発生時刻、市内のコンサートホールでは市民の慰労のための演奏会が開かれており、 一部のシンフォニカ関係者から「D2はこの演奏会を標的にしたのではないか」という情報が入っております。

なお、この襲撃によってホールは全壊し、演奏中だった指揮者・朝雛ケンジ氏をはじめ、楽団メンバーの多くも犠牲になったとのことです。
市街の被害も含めた死者・行方不明者は100人をゆうに超え、今後もさらに増えると見込まれています。
政府ならびにシンフォニカは今回の事件について被害者に哀悼の意を示すとともに、襲撃の発生自体を非常に重く捉えており、近く会見を開き今後の対応についての発表を行うとのことです。

(「ボストンの惨劇」発生翌朝のニュース・レポートより)

 

ザーガン宣言

脅威は去った。
D2は多くを失い、眠りについた。シンフォニカはその番人となった。

いまやこの大陸のどこにも、D2の場所は存在しない。
ただの一つも。

世界を闇に沈めた化物は去った。
時代は再び、前へと歩み始める時である。立場も、人種も、関係なく。
悲しき時代を乗り越え、恐ろしい敵に打ち勝ったこの事実は、想像以上に全人類を団結させていくだろう。

だが、音楽はまだ始めるべきではない。
刻まれた傷跡は、いまだ大地に残されている。
それが癒えるまでは、今暫しの時が必要だからだ。
それだけが、これより先に私の望むことだ。

安心してほしい。シンフォニカは共にある。
信じてほしい。シンフォニカは共にある。

我々が、旗印として、新しい世界のあり方を示そう。

――2043年『ザーガン宣言』より抜粋。

 

???

 

coming soon.